2025/09/01 16:35


ご自身で調合された土、釉薬を用い、より良い表現に繋がるような実験を常に繰り返しながらも、あくまで潔くシンプルな作品を制作される小野俊さん。
その勤勉な姿勢から生まれる作品は作り手としての表現だけでなく、使い手への思いが強く感じられる、まさに”間のいい”うつわです。

9月6日(土)からMA STOREで開催する陶芸家 小野俊個展”comfortware”に先駆けて、今回はその準備を行なってくださっている工房を訪ねました。


小田原駅から車で15分ほど、入り組んだ住宅地を抜けた先にある自宅の一角を改修し、工房としている小野さん。
森林が伺える窓からはたっぷりと光が入る、気持ちの良い一軒家です。
その離れのような場所にある二部屋の壁を抜いて設けられた工房へ足を踏み入れると、所狭しと並んでいるの白と黒の作品。
そして、より良い作品に繋がることを求めて制作されている試作品がそのおよそ半分近くを占めています。


ご自身でブレンドされている土や釉薬もこれで完成とすることはなく、調合のバランスや焼成時間、窯の中での置き場所といった環境を変えながら理想の色味、風合いを安定的に制作できるようここで実験を繰り返し行います。
シンプルであるからこそ追求できる要素が限りなくあり、年に数回行われる展示の際のフィードバックを参考にしながら改善に向けて日々手を動かされているそう。


「作家としての表現はもちろん大事だけど、売り手や使い手の視点から出る意見もどんどん取り入れていきたい。」
と仰っているのが小野さんらしく、そんな姿勢が滲み出ている小野さんの作品の魅力はなんといってもつい手に取ってしまう使い勝手の良さ、そして料理に着せる上質な衣服のような色味と風合い。


訪れた際は”白珠釉”と名付けられた白い作品の風合いをより良くするための実験を行なっており、使われた陶片を見せていただきました。
シンプルであるからこそ追求できる要素が限りなくあり、以前当店へ納めていただいた作品と比べても、工房にある作品はまた釉薬の配合が少しずつ変わっているようでした。


こういった作り手の作品に触れて常々思うのは、作家の手によって生まれる作品は”今、この時”にしか手に入らないということ。
その時の環境や技術、仕入れた材料、もっと言えば作家の体調や気分によって毎回全く違う作品が生まれてきます。
だからこそ、売り手、使い手となる我々はその時出会えた唯一の作品を大切にし、作り手のことを思いながら日々の道具として扱う時間に豊かさを見出せるのではないでしょうか。


小野さんの作品は、今回の個展でさらに理想へ近づき、そしてこれからも長い年月をかけて磨かれ続けていくものだと思います。
ただし、それが使い手である個人にとってより良いものになるかはまた別の話です。

実験的に作った作品がたまたまその人にとって特別な1点になるかもしれませんし、小野さんにとっては上手くいかなかった作品だとしても、それが特に惹かれる個体となることは多々あります。

個人的にも、突然変異のように生まれた個体や少し歪な個体に一層美しさを感じてしまうことがあるからこそ、偶然目の前に現れたその作品をしっかりと見つめ、向き合いたい。

小野さんの作業を眺め、今のものづくりに対してのお話を伺いながら、そう改めて感じました。


実際にろくろを使って制作されているところも見せていただきました。

粘土の状態からうつわが立ち上がっていく姿、そこから生まれる形状は作家によって様々なものの、その様はいつ見ても感動するものです。
小野さんが終始朗らかな雰囲気で制作をされていたのも、生活と仕事の喜びがひとつなぎになっているように思えて、あらためて暮らしを楽しむ心から健やかな作品は生まれるのだろうと思います。


話を終え、居間に戻るとパートナーのエレナさんがダイニングにある椅子に座って、ご自身の仕事の作業をされていました。
「おかえり」と声をかけてくれる、それに小野さんが答え、キッチンから飲み物を持ってきて近くにあるソファーに腰かける。

そんな一連の流れは小野さんにとってはありふれた日常であるかもしれませんが、ほとんど初対面の私ですらなんとなく、「仕事を終え、工房を出たらエレナさんが出迎えてくれる」ということに不思議な心強さを覚えるのです。

今回、エレナさんが経営されているスパイスを使った洋菓子店〈Qué BONITA〉のグラノーラも、特別に小野さんの作品とともに販売させていただきます。


小野さんの個展でどうしてもふたりの作品が並ぶ機会を作りたかったのは、この二人の関係性がとても素敵だと思うこと、そして、ご自身もおっしゃる通り、小野さんの作る作品や作風にはエレナさんの存在が大いに関係しているからです。

人柄からは全く違う印象を受けるのに、ふたりが揃ったときの互い違いのパーツがしっかりと合わさったような感覚、そのエネルギーがあるからこそ小野さんは作品の制作へ全力を傾けられるのではないでしょうか。

初日をはじめとした在店日にはエレナさんも一緒にお越しいただけるそうですので、ぜひ、作品とともにおふたりのお話も直接伺っていただけれると何よりです。
 
 
小野俊 "comfortware" 
9月6日(土)~9月15日(月祝) 13:00~19:00
※9月10日(水) は休業
作家在店日:9月6日(土)7日(日)15日(月祝)