2024/10/12 14:27
”板金の限りない表現を追求する”EETALのやり方(前編)では、EETALというプロダクトブランドが生まれた経緯や思いについて伺いました。
後編では、デザイナーとの取り組みから生まれた『SUITE』『OSUMŌ』、2つのシリーズについてお伺いしています。
前編はこちらからご覧ください。
「最初のデザイナーが清水久和さんに決まって、デザインをご提案いただく最初の打ち合わせで出た案が、正直に言うとちょっと物足りないなと思ったんです。
どこかで見たことがあるデザインというか、大手の家具ブランドが展開している中のひとつであればもちろん良いデザインだと思うのですが、初めて作品を作る僕たちが発表するのであれば、もう少しエッジの効いたものでないと話題にすらならないんじゃないかと。
もちろん清水さんへ敬意は払いつつも、すんなりこれでいこうってなるには違うのかなと煮え切らない反応をしていたら、それを清水さんが察してくれたのか、デザイン案を変更してくださって。
きっともう少し攻めた感じの表現でもこのクライアントであれば面白がってもらえると思ってくれたんでしょうね。
そうして出してくださった案が『SUITE』シリーズになったデザインで、これはもう一目見てすぐにこれ!となりました。」
そうして『SUITE』スツール、サイドテーブルのふたつのデザイン案をもとに実際の制作が始まります。
普段は産業機器を作っているメーカーが初めて家具を制作する中で、技術的に難しい問題がいくつも出てきたそう。
「まず、産業機器を製造する過程では大抵板金を直角、もしくは直線にカットすることがほとんどなので、『SUITE』シリーズに共通するやわらかい曲線というのを全く作ったことがなかったんです。
もちろんそういう設備もないですし、それこそ”これってどうすればいいのかな”と考えるところから始まりました。
サイドテーブルの斜めの支柱も、曲げるピッチを数ミリ単位でずらして調整しながら検証するっていうのを50回以上繰り返して。
これは成形を少しでも誤ってしまうといびつな形になってしまうので、どうすれば綺麗な楕円形になるのかというのを何度も話し合いました。
実は発表の時期を決めた状態で進めていたんですけど、これはもう間に合わないんじゃないかって、一時期は結構追い込まれて。
そんな時にも職人たちが”このパターンをもう一回試したい”とか”このパターンはまだやってないから、これでもダメならもう延期しよう”と手を動かし続けてくれて、本当の最後の最後に完成したんです。
職人もみんなが持っている知識や技術を思う存分に発揮してここまで漕ぎ着けたので、すごく達成感はありましたね。
「そして、お披露目となったのは21_21 DESIGN SIGHTで清水さんがこれまでのクライアントワークを一挙に展示するというイベントで、ここで新作として置いていただけました。
もちろんプロダクト自体にはすごく自信があったものの、どういう反応があるのかわからないまま展示を見に行ったら、たくさんのお客様がスツールとテーブルを囲んで、触ったり座ったりしていて。
来場してくれた媒体から取材依頼が来たりとか、安心感とともにすごく手応えを感じました。
こういう反応をもらって、特に技術職の現場の社員がやっぱり特に喜んでくれて。
やっぱり自分たちの作った作品が使う人の生活の中に取り入れられて、使って喜んでいただけるっていう実感がこれまではなかったので、モチベーションが上がったと聞いて僕も嬉しかったですね。
無事に『SUITE』シリーズがお披露目され、多くの人から感想をもらう中、木下さんは次のプロダクトへと歩みを進め始めます。
「清水さんとの企画を進めている中で、今回のようにプロダクトデザインをメインにされている方だけにお願いするのでは展開に幅が出ないと思っていたので、プロダクト以外の分野でお仕事をされている方とも取り組んでいくべきだというのは思っていました。
そこでグラフィックをされている方、特に独自の造形力がある人はきっと立体の造形にも向いているんじゃないかと思って。
そこで小林一毅さんにお願いしたいと思って、それこそInstagramでDMを送ってみたんです。
するとちょうど立体造形をやってみたいと考えてくださっていたそうで、話自体はスムーズに進んだんですけど、いざどういうものを作るか、というところで難航してしまって構想にかなり長い時間がかかりました。
それで、一毅さんにはお子さんがいらっしゃるんですけど、よく切り絵を作って遊ばれていたそうなんです。
これが難しくて、お子さんが飽きて他のものに興味を持ってしまう前に切り絵を完成させないといけないからモチーフになるものもどんどん抽象化していって。
その時に、これを板金で表現すればというアイデアを思いついたそうなんです。
そこから話し合って、『OSUMŌ』ブックエンドとしての制作がスタートしました。」
「『SUITE』シリーズは家具という意味でも細かな検証がものすごく多くて、人が乗っても壊れないかとか、重いものをテーブルに何時間置いていたら変形しないとか、デザインはもちろん機能として担保できるかというところにすごく時間はかかりました。
一方で『OSUMŌ』の場合は本を支えるという機能が主になってくるので、そういったプロセスは必要なかったのですが、じゃあ本をしっかりと支えられる板の厚みは何ミリなのか、持った時に見た目の軽さとギャップを感じるのはどれくらいがいいのかとか。
そういった意匠面の検証が多かったですね。
あと、『OSUMŌ』はカラーリングが特徴的なので、その色をしっかり出せるように塗装の技術は追求する必要がありました。
見る人が見ればわかるのですが、今回だと特に黄色は塗り込みが甘いと板金の青みが残ってしまうので、そういった色に関しては何度も塗って乾かしてを繰り返して、どの面も単一の色味になるようにしています。
ブックエンドは造形としても美しく、どんな置き方をしても楽しめるようになっているのでブックエンド以外の使い方、倒したり、目隠しに使ったりと、そこに竹内優介さんのスタイリングも入って、平面でも立体でも、双方から楽しめるような表現になったと思います。」
こうしてEETALの『SUITE』『OSUMŌ』ふたつのシリーズを今回MA STOREでお取り扱いさせていただきましたが、今秋には新作も発表予定だそう。
次回もこれまでにない、板金の可能性を広げるような作品になるようです。
「EETALは本業となる事業があるからこそ、実験や試行錯誤から生まれる誰もみたことのない表現を作り続けるべきだと思うし、デザイナーが今これを表現したいという要望に応えられるように技術を追求しています。
売れそうとかじゃなくて、まずは面白いとか驚いてもらえるようなものに人と時間を注ぎ込んで時間をかけてやっぱり作っていきたいと思ってます。
だからやっぱり攻めないと。その他大勢になっても仕方ない。」
最後に、EETALを始めてからの変化について伺ってみました。
「実は本当ここ 1 年ぐらい、少しずつですけど、若い職人さんたちが新しく入ってきてくれたりしていまして。
中には20代の女性も”EETALの作品や記事を見て、塗装って格好いいなと思って”と来てくれたんですよ。これはめちゃくちゃ嬉しかったです。
そんな風に、EETALプロジェクトをきっかけに若い人たちがものづくりをしてみたいと思ってもらえることとか、仲間になってくれる人が増えたりとか、デザイナーがこの会社だったら自分の表現ができるかもしれないとか。
そうなっていけばいいなとはすごく思いますね。
徐々にですけど、そういうポジティブな変化は起きてきているので、会社としてもこれはやり続けたいなっていう風になってくれているはずです。」
"EETAL's METHOD"
2024年10月5日(土)~20日(日) 13:00~19:00
※9日(水) 16日(水)は休業
EETAL 木下様在店日:10月14日(月祝)